2007年06月10日

■第10話 呼び出し

 中2の進級間近の事です。
 久しぶりに登校した隆が同級生に暴力を奮って、校庭の花壇も壊したと、学校から連絡がありました。

 駆け付けてみると、指導室で、隆と担当、学年主任が話しをしてました。

「弱い奴を助けて何が悪いんだよ。おめえらが、やらないから俺がやったんだよ。アイツがイジメにあってるのは前からわかっていたのに、なんで放っておくんだよ。ふざけんじゃないぜ」

「隆の気持ちは分かるけど、先に手を出した方が負けなんだよ。それに、相手は普通の子だから厄介なんだよ。イジメをみたら先生に知らせろ」

「ふざけんじゃないぜ。ずっと前から知ってるくせに、おめえら何もしてねえじゃんかよ。俺が怒ったら、もう二度とイジメないからって土下座して泣いて謝ったぜ。弱い者イジメは許さないぜ」

 イジメの現場を見て助けたのはいいのですが、逃げた同級生を捕まえて殴ってしまい、近くにあった花壇を蹴飛ばしたようでした。

 隆は、突っ張りながらも正義感のある子で、弱者を庇う喧嘩はよくありました。

 喧嘩をけしかけた相手は自分が痛い目にあうと、被害者になり大騒ぎをします。

 菓子折りを持って謝罪に行くと、どの親御さんも被害者意識で口荒く責め立てますが、隆は反論しないでいました。

「うちの子に限って」と思っている親御さんに原因を話しても理解出来ないでしょうし、訪問の目的は弁明ではなく、結果の謝罪なので、私も隆を庇う事はしませんでした。


 春休みになり、進級、進学で周囲が新たな希望に湧き立つ中で、私は次男の入学準備に気持ちを引き締めていました。

 年子なので隆は2年、淳が1年になり、学校生活は2年間重なります。

 家庭環境は淳に大きな影響を与えていましたから、心配は後を絶ちませんでした。

 それに、小学校のPTA会長を担っていましたので、入学準備の中でも淳とゆっくり話を出来ないままでした。

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2007年06月09日

■第9話 1日千円

 隆たちは、ご飯を食べると、たむろに行くと出かけて行きました。

 隆に千円渡そうとしたら、

「いいよ。昨日のお釣りが5百円あるから」

「そうかい。でも一応持っていきなさい。それから、いつも言ってるけど、奢ったり奢られたりはダメだよ。自分のお金はちゃんと考えて遣ってね」

 隆には毎日千円の小遣いを渡していました。
 取り巻きの少年たちは殆んどお金を持っていませんでした。プチ家出を繰り返し、非行に走る我が子に小遣いの心配をする親はいないと思いますが、私は出掛ければお腹も空くし喉も渇くだろうと思い、お金を渡していました。

 お腹が空いたら帰って来る、などというのは通用しません。
 至るところにコンビニがあり自販機があります。
 殆んどの少年が万引きで腹を満たしています。お金が欲しかったら自販機を壊すか、ひったくりをしているのです。
 顔利きの少年は恐喝で凌いでいます。

 万引きや恐喝などが事件になると、多くの親は我が子を責めます。
 非行の原因と結果に気が付かず、怒り嘆く親が多々います。

 随分あとの事ですが、数人の親御さんと会って腹の底から怒りを感じた事がありました。

 愛情もかけない。
 心配もしない。
 お金もやらない。

 挙句の果てに、「親に迷惑を掛けないで」という。

「この子には、散々説教してきましたから」と、16、7才の子を前にしてはっきり言ってのけるのです。
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2007年06月08日

■第8話 不登校生活

 隆の生活は、ますます荒み、昼夜問わずヤンキー仲間が家にたむろうようになりました。

 茶髪金髪、流行りのジャージやら特攻服やら、見るからに怖い少年たちです。
 近所の人たちの反応は、触らぬ神に祟り無しと、見て見ぬふりでした。

 出入りの少年たちは市外を越え、5、6市や区の顔見知り同士でした。
 非行網は想像以上に広く縦と横が入り交じり、なんでも有りの不毛地帯のようです。

 4年近くで100人以上の少年と関わり、心境を語ってくれた子は50人近くいました。その中でも立ち直りが出来た子は、僅か3、4人のようです。

 鑑別所、少年院を繰り返しながらも自力ではい上がろうとする少年たち。
 徘徊し自分の居場所を探し続ける少年たち。
 悪業と分かりながらも犯してしまう罪。
 暴力団組織との関わり。

 少年たちは何故、組織に魅了されるのでしょうか。
 私は非行の実態を目の当たりに見てきました。

 少年たちと関わり合えばあうほど、心の叫びが聞こえてきました。
長い間、私の胸に封印していた少年たちの心の叫びを、今伝えたいと思います。

 どんな思春期であっても、そこには小さな青春が息吹いていました。
 そして、家族をこよなく愛していた少年たちでした。


 中一の終わり頃には、隆は殆んど登校しない生活になっていました。私も自分で決意した生活を実践していました。

 午前九時には仕事に行き、隆が出かける夕方に帰宅。仲間と隆に食事をさせながら、今日一日、何処で誰と何をするかを1時間位の雑談の中で聞いてみる。
 有り合わせの料理でしたが、温かいご飯と味噌汁はうけていたようです。

 食べながら、こんな会話が続きます。

「昨日の喧嘩、ヤバかったよな。暴走族とツルんでる奴らだぜ。しかも、ナイフで刺されそうになったし、今度見掛けたら拉致ろうぜ」

「同じこと相手も考えているぜ。単車ナンバーが○○区だからA先輩に聞いてみようぜ。鑑別所から出て暴走族に戻ったから、また箔がついてるぜ」

「ちょっと待てよ。A先輩を出したらD先輩もつながるぜ。カンパしろって言われるぜ。この間も仲間がカンパばっくれて、リンチもんだぜ。奴もうこの辺にいないぜ」

 隆がここで口を挟みました。

「途中でひとり逃げた奴は○○区の中坊だよ。ダチが喝アゲ食らって乗りこんだ時、メンバーの中にいたような気がするよ」

 頃合いをみて、私も口を挟みました。

「最近あっちこっちの中学で非行問題が多いけど、グループってみんな繋がってるでしょう。先輩の力関係もあるだろけど、先輩って何才位までの人と繋がってるの?」

 少年が答えました。

「先輩は26才位までは繋がってるよ。暴走族から出世して組に入って行く人もいるよ。それに、遊んでる奴らは地元以外でも殆んど顔見知りだよ。あんまりヤバイ奴らとは付き合わようにしてる」

 3人の少年は16才で他市の先輩。隆の行動範囲は数市から数区に股がっていました。

 同学年と遊んでる分には保護者や学校と連絡しあえますが、先輩絡みになると枝から枝へと繋がります。
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2007年06月07日

■第7話 煙草

 2学期入り、隆は遅刻しながらも学校に行っていました。
 髪型は剃り込みの坊主で、眉なしは、どっから見てもヤンキーです。

 ある日、2年の先輩を4、5人連れて帰ってきました。
 この子たちもまた問題のある子たちでした。
 隆は平気で先輩をパシリで使っていました。隆に気を遣う様子が有りありと見えました。

 学校から「隆が煙草を持っている」と呼ばれたので直ぐに行ってみると、指導室に隆が座っていました。

「親の監督不行き届きですみません。いろいろ面倒をお掛けして申し訳ありません」

「貰った相手を言えば帰っていいけど、相手を庇って言わないんですよ。下らない奴と付き合っていると損するぞ」

 隆は私の手前気まずそうにしてましたが、相手の名前は言いませんでした。

お母さんも下らない奴を家に上げない方がいいですよ」

 この言葉にがっかりした私は

「そうですね、先生からみたら下らない奴ですよね。でも、親にとっては掛け替えのない子供ですよ。しかも、先生にしても生徒じゃないですか。親御さんが聞いたら嘆きますよ。実際、私の家にはいろんな子が遊びにきます。ご飯も一緒に食べる事もあります。でも、誰ひとりとして下らない奴はいません」

 言いたい事も話したい事も沢山ありましたが、隆の前なので留まりました。学校と家庭の信頼関係が隆には必要だとも感じました。

 隆の生活はどんどん乱れ、学校も欠席しがちになり、昼夜逆の行動になっていきました。

 2年をパシリに使い、3年のグループの仲間を頻繁に家に連れてきました。
 授業妨害、校内暴力、傷害事件などで問題のあるグループでした。


 ある日、番長格のG君が神妙な顔で

「おばちゃん、俺高校にいけないかもしれないんだ。今日も喧嘩して警察沙汰になったらもうダメらしい。俺やっぱり高校に行きたいんだ」

「そう、どんな理由でも暴力はいけないね。高校に行きたいなら、その気持ちを素直に親に話してごらん。いろいろご免なさい。って、ちゃんと謝ってからね」

 G君は深く頷きました。パンチパ―マで傷だらけの顔は15才のあどけない顔でした。

 私はG君の手を取り

「この手はね、自分の未来をつかむ手だよ。決して人を殴る手じゃないんだよ」
 
 と言いました。

 取り巻きの子たちも静かに話しを聞いてましたが、ひとりが食べかけのご飯に箸をつけるとみんな食べ出しました。

 後にG君が暴走族の総長を経て、広域暴力団の構成員になろうとは夢にも思いませんでした。
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2007年06月06日

■第6話 母の決意

 隆が非行に走り出した原因は、家庭にあるのは分かっていました。
 夫婦の価値観の違いもありましたが、会社経営が破綻したころから、離婚の危機にさらされてきたのでした。

 家庭不和の環境で、子供なりに悩んでいたのでしょう。そんなときに、ふと横をみたら、違う世界があったということです。

 隆と私は夜遊び、仲間との関係を何度も何度も繰り返し話し合いましたが、ひとたび解き放されたエネルギーは、説教や理屈を跳ね返す力がありました。

 取り巻きの少年たちも最初は隆と同じだったはずです。我が子を心配しない親はいないはず。どこかで子供のエネルギーに負けてしまったのか、非行の原因を探さないまま諦めてしまったのか?

 隆を通して少年たちと関わるなかで、私は新たな決意をしました。

 ・この先なにがあっても子育てを諦めない。
 
 ・隆の思春期を共に歩いて行く。
 
 ・誰がなんと言おうと構わない。
  批判や陰口は気にしないで隆を信じて行こう。

 ・いろんな思春期のトンネルがあるなかで
  隆がそこを通りたいのなら、
  隆の手をしっかり握りしめ離さないで行こう。

 ・隆を非行のなかで守るには、
  取り巻きの少年たちも一緒に守って行こう。

 ・少年たちに出来る限りの情を持って接して行こう。


 腹を括ったこの日から、非行との壮絶な闘いがはじまりました。
そして、想像を絶する展開はこんな事からでした。
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2007年06月05日

■第5話 3つの約束

 夏祭りが盛んになりだした頃から隆の行動範囲は広がり、交遊の年齢層も目立ってきました。

 こんな母子の会話が日々続きました。

「今日も祭りに行くの? そんな格好で行くと絡まれるんじゃないの? どっから見ても怖いお兄さんみたいだよ」

「みんなはもっとすごいよ」

「みんなって誰? 学校の先輩じゃないの?」

「先輩の先輩でいろんな繋がりがあるんだ。他校の奴らもいるし」

「そうでしょうね。祭りには、いろんな子が来るから気をつけてね。危ないことはしないようにね」

 隆は連日のように夜遊びしだしていました。

 「そんな格好」とは、髪型はパンチパ―マに剃り込みで、イカツイ甚平姿です。大柄な上に年より落ち着いた振舞いをするので、どっから見ても中一には思えないのでした。


 夜遊びの続くなかでも、隆との3つの約束がありました。

 一は、誰と何処で会うのか?
 二は、外泊をしない。
 三は、私の携帯電話は必ず出る。

 子供が手の届かないところに行ってしまわないように最小限の約束です。

 隆は非行の入口に立っていました。
 見るもの聞くもの触れるもの、全てに好奇心を示していました。

 先輩グループとたむろう事で、次々と仲間が増えていく。どんなに遅くなっても家に帰って来ること、夜通し公園やコンビニで話し込まないことの約束を守るには、子供なりの強い意志で「ボク帰ります」と言えなくてはいけません。

 しかし、取り巻きといることが面白くなりだした今では難しいことです。


 祭りの夜、11時を過ぎたころ、隆の電話で現地に行くと、原チャリに乗った4、5人の先輩と騒いでいました。

「なんの騒ぎ?」

「他の奴らがいきなり原チャリで突っ込んできてダチが怪我した。近くの先輩を呼んで捕まえようとしたけど逃げられた」

 ヤンキー同士の小競り合いだ。通行人は関わりたくないように少年達を避けて行く。怪我した子供に声を掛ける人もいません。

 幸い怪我は軽く、家まで送ろうとしましたが、帰らないと言うので隆と一緒に連れて帰って来ました。午前2時を回っていましたが、夜食を作り二人に食べさせました。

 この頃から、我が家には家に帰りたくない子供達が頻繁に出入りするようになっていました。同級生より上の15〜18才の少年が多くいました。夜の徘徊を繰り返し、腹が減ったら万引きをして、眠くなったらどこかに潜り込む。

 少年たちは家庭からも大人からも見放され、彷徨い歩いていたのです。

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2007年06月04日

■第4話 夏休み

 1学期の終業式の日に各部活の反省会がひらかれ、保護者に向けてこんな話しがありました。

「昨今、学校の在り方が問われていますが、家庭と学校と地域が三位一体となり子育てをする。個性を伸ばし可能性を引き出す。当校では生徒と向き合いながら問題解決をする方針です。ご家庭におかれましても心配な点は何なりとご相談ください。この1学期は学習と部活に励み、子供は成長したと思います」

 保護者の出席は少なく先生の話をよそに私語三昧です。中学になると親が学校離れすると聞いていたので、成る程と感じました。

 隆は少し前に部活を辞めてましたから、部活の話しは別によかったんですが、どんな報告かは興味がありました。案の定、野球部も当たり障りのない報告でした。気持ちのどこかで学校というカプセルを感じたのを覚えています。


 夏休みに入り、直ぐに隆は2年の先輩4人を家に連れ来ました。ちょっと、だらしない服装ですが、幼い顔で素直な子たちです。中にはリトルリ―グで一緒だった子もいました。

「しばらくね。ちょっと見ないうちにすっかりお兄さんになったわね。お母さんお父さん元気ですか? 宜しく言ってね」

 声をかけられた子はニッコリして

「はい。言っておきます」

 って返事してました。

 茶の間で飲み物とお菓子を用意して子供たちと歓談して、その後二階の隆の部屋へ上がっていきました。

 友達は茶の間へ通すのが習慣になってましたので、中学になっても当たり前でした。逆に通された子たちが面食らうのはよくありました。

 私が余りにざっくばらんに話すので、30分もすると遠慮が溶け、笑いがでるようなります。

 先輩が帰って夕飯を食べながら

「ねえ、隆は同級生と遊ぶより、先輩といた方が楽しいの? どんなところが気が合うの?」

「2年だけど、いろんな事を知ってるから話してて面白いよ。それに、カッコイイところもあるし。3年の先輩は超怖いよ。M君なんかパンチパ―マだよ。いろいろグループがあるみたいだよ」

 いつも通りの会話で隆は感じた事を素直に話してくれました。

「そうなんだ。やっぱり、中2と中3は全然違うでしょう。でも、直ぐに高校の準備をしないといけないから、ちょっと大変かもね。何せ、3年間って早いからね。隆もしっかり頑張ろうね」

「お母さんは、先輩たちをどう思う? 不良だと思う? 悪い人だと思う?」

 隆の質問は難しく、適切な答えがあっても説明に迷ってしまいました。痛いところを突かれたと思いました。

「そうだね、中学生とはいえまだ子供だからね。思春期は難しくっていろいろなパターンがあるのよ。環境で左右されたり、親子の関係だったりね。はっきり言える事は、先輩たちには理由があると思うの。お母さんは根っから悪い子供はいないと思うの。でも、危険な行動は避けて行かないとね、自分を大切にする。それが基本だと思うよ」

「うん、僕もそう思う。先輩たちは大人が嫌いらしいよ。先公なんかクソッタレだっていつも言ってるしさ」

 私は大人が嫌いだと言う気持ちが分かるような気がしました。

 隆に私の話しが理解できたかどうか分かりませんが、少なくとも同じ年代を排他的に見てほしくありませんでした。

 そんなふうに思いながらも気持ちの隅で、「他の母親だったら非行少年の悪業を並べ立て、絶対寄せ付けない話しをするだろう。我が子とは別人の偏見を持って避けて通るだろう」と思いつつ、保護者会で言ってた「非行から子供を守りましょう」の言葉がぼんやり頭をかすめました。
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2007年06月03日

■第3話 部活を辞めたい

 一学期の学校生活は持前の元気とひょうきんさで、友達も増えて伸び伸びと過ごしました。私もPTA役員をうけてましたから、時々学校に行っては子供の様子を見て安心してました。

 ところが、夏休みの直前、隆が急に「部活を辞めたい」と言い出しました。

 隆は、地元のリトルリ―グで2塁を守り4番バッターの活躍を活かしたいと、野球部に入っていました。

 部活で養うことは多く、心身の発達にスポーツは最適と思ってました。
 それに、小児喘息で年数回は発作があり、病気に駆け込んでいましたので、体力をつけたいとも思ってました。

 しかし、日々の部活は基礎練習で走ることが多く、隆の90キロを超える体重では、足並みを揃えて走るのは大変だったようです。

 リトルリ―グのように複数のコ―チがいるわけではなく、主に部員だけの練習でした。
 部活を辞めたい理由は薄々分かってましたが、私は知らん顔して、

「隆は野球が上手いから2年になったらレギュラーで活躍すると思うけど、辞めたいなんて言うには余程の理由があるんでしょう。良かったらお母さんに話してちょうだい」

 隆はためらうことなく、

「入部して直ぐに監督から『お前はデブってるから大変だな。ちゃんとみんなに合わせろよ』って言われて、監督が練習を見にくると、みんなの前で体型のことを言うんだ。頑張って走ってもみんなより遅いし足並みについて行けないよ」

 監督の先生は教務主任で、放課後の部活には熱心ではないようでした。運動部のいじめも噂になっていましたし、監督のいない日々の練習に不安もありました。

 数日後、野球部の監督を訪ねて学校へ行ってみると校庭に隆の姿がありました。
 1年生が一個連帯になって校庭の端をランニングしていました。隆はずっと後ろのほうでした。
 職員室に入ると監督の後ろ姿が目に入りました。ベランダに出て両手を口にあて野球部めがけ

「しっかり気合い入れてやれよ。3年は2年とキャッチボール。1年は素振り100回やれ」

 と大声で叫んでました。

 私は後ろから声をかけ

「こんにちは。お世話になっています。突然伺ってすみませんが少し先生とお話しできますか?」

 先生は振り向きざま体裁悪い仕草で

「これは、これはどうも。こんにちは、どうぞこちらへ」

 と、来客室へ案内してくれました。私は月並みの挨拶をして

「そう言えば、4、5日前に部活の話しをしていて、練習中に体型のことを言われてひどく落ち込んでしまったらしいのですが、もちろん先生は個人差を理解してるので部員にはそのような事は言わないよう指導して下さってると思いますが、思春期はいろいろ難しいですよね。それにしても、教務主任のお仕事と監督の両立は大変ですよね。今日のようにベランダ監督が多いと目がとどかず歯痒いところもあるのでは?」

「あは〜、まいったな。そうですか、彼、気にしてるんですかあ。まあ、部員たちは悪気がないと思いますよ。気にしないように言って下さい。それに、僕も忙しくて練習をみてやれないし、その分3年が新入の面倒を見てますよ。」

「そうですか、悪気がないから、先生も自分の言ったこと忘れているのね。今日みたいにベランダ監督している時に『おい、太ってるの頑張れ』って先生が言っていたのを部員たちも聞いてますけど…。それに、まだ1学期も終わらないのに殆んど部員だけの練習ではちょっと心配ですよね。まあ、先生の指導方針もあると思いますので、帰って隆とよく話して見てますね」

 先生と会う前に数人の部員から部活の様子を聞きいてました。子供たちへの思いが欠けてるような気がしたので、相談したい事が事実確認でおわりました。

 部活を辞めたいと言った隆の気持ちが分かり、私もまた引き留める理由がない気がしました。
 校庭を歩きながら練習中の隆に軽く手を振ると、隆も振り返してくれました。

 親子の会話が少なくなって子供の心が見えにくいと嘆く時代ですが、私は会話を重視した子育てを心がけてきたので、何でも話し合える関係が確立していました。中学になっても1日2時間位の会話をしてました。

 次男の淳も来年は中学生です。
 年子の兄弟なので幼児時期は手が掛かりましたが、そろそろ落ち着く頃かなと思ってました。
 
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2007年06月02日

■第2話 保護者会にて

 1学期も終わりのころ保護者会があり、学期の反省と夏休みの生活について担当はこんなことを言ってました。

「昨今、非行問題が深刻です。社会を震撼させる事件に青少年の関与もしばしばあります。子供たちは思春期に入りこの時期が一番大事です。特に夏休みで変わりますので、ご家庭では十分に注意して下さい。夏祭りには非行グループが、たむろしていますので近づけないで下さい。非行グループから子供を守りましょう」

「先生、上級生にも問題児がいて手をやいている噂があります。一年生に悪影響があるのでは? そんな生徒には登校してほしくないですよ」
 と、発言した保護者に多くの方が頷いてました。

 私はどっちに就かずの思いでしたから、他人事のように聞いていました。
 しかし、他人事から自分事になるには、それほど時間がかかりませんでした。
 この保護者会を境に、我が子の非行と壮絶な闘いになろうとは、このときはまだ夢にも思っていませんでした。


 ある日、隆が学校から帰るなり

「B君たちが裏庭で騒いでたよ。茶髪ですごくイカツイよ。今度遊ぼうって言われたけど」

 と、ちょっと高ぶりながら言いました。

 B君は少年野球で5年間一緒でしたので、よく知ってる子でした。

 しっかりした家庭なので余計な心配をしないで、

「そうなの。いろいろ興味がある時期だし、やんちゃな好奇心を持つ年頃だよね。遊ぼって言われたなら今度家に連れ来れば」

「そうだね。そう言ってみるね」

 私は服装や茶髪の事はあえて言いませんでした。

 外見で人を判断したり否定するのは良くないと思ってましたし、そんな大人にもなってほしくはなかったからです。
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